ガイドとレポート

2024年ホスピタリティ業界の4大トレンド

ホスピタリティ業界の特に重要なトレンドと、それらがホテルを利用するゲストの体験とホテルの運営にどう影響するのかを見ていきます。

23 1月, 2024
 ·  7 分

ホテルは常に、業務を合理化し、ゲストの体験をカスタマイズする新しい方法を模索しています。各ホテルでの取り組みの改善に役立つよう、ここではホスピタリティ業界で特に重要な、以下の4大トレンドについて考察します。また、業務効率とゲストの満足度を両立させるためのテクノロジーについてもご紹介します。

1. ゲストは商品ではなく体験を求めている

2. オムニチャネルの決済技術で、ゲスト側とホテル側の両方の体験をアップグレード

3. 不正は増加傾向にあるものの、新しいセキュリティソリューションには大きな可能性がある

4. 自動化によってホテル運営のアジリティを実現

それでは、一つずつ、詳しく解説していきます。

1. ゲストは商品ではなく体験を求めている

課題

ホテルの宿泊料金はインフレの影響で上昇しており、ゲストの満足度低下につながっています。

そのため、業界に期待することも変化しています。ホテルのゲストや観光客は、高度なパーソナライゼーションと独自の体験の両方を求めており、お金を使うことで、特別な気分を味わいたいと思っているのです。

ゲストが望んでいるのは、ホテルが個々人のニーズや好みを記憶し、自分に合った体験を提供することです。その内容は、ウェルカムバスケットやルームサービスから、プロモーションや客室のアップグレードに至るまで、多岐にわたります。

同時に、単に快適な宿泊環境だけでなく、独自の体験やアクティビティを求める人も増えています。ヨガ、サーフィン、ダイビング、グルメツアー、ダークツーリズムなど、多くのゲストが、思い出に残る没入型の冒険を望んでおり、いわゆる「インスタ映え」の瞬間を求めているのです

現状分析

これは、ホスピタリティ企業にとっても、今まで提供してきたサービスの範囲を超える冒険ができる絶好の機会です。

実際、ホスピタリティ企業の65%は、自社はゲストとより密接に関わることができる「エクスペリエンスセンター」になっていくと予想しています。また62%は、パーソナライゼーションにより、コンバージョン率が高まったと答えています。結局、ゲストはよりパーソナライズされた体験を味わえるのなら多少の出費は厭わないのです。

今後の展望

業界にエクスペリエンスエコノミーのトレンドが浸透するにつれ、企業はパーソナライゼーションの難しい課題に直面せざるを得なくなっています。ゲストの心をつかむのは容易ではありません。どのゲストがいつ何を求めるかを把握すること自体が仕事なのです。

決済データは、よりパーソナライズされた体験を提供し、ゲストの到着前から滞在後まで期待に応えるためにも役立ちます。ホテルはリアルタイムの決済データを利用すれば、ゲストがどこから来て、どんな決済方法を利用し、何にいくら支払い、どんな滞在目的があるのか(例:仕事、レジャー、または両方)などのインサイトを獲得できます。

ホテルは、客室のアップグレード、送迎、飲食アメニティーの提供などの形で、アップセルやクロスセルをパーソナライズできます。

また、さまざまなゲストの層に対して、各種のチェックインとチェックアウトのオプションを用意することも考えられます。例えば、ビジネスで滞在する出張客は、フロントに立ち寄らずにすぐに客室へ向かい、休憩や仕事に時間を使いたいと思っています。そのため、セルフチェックイン型のキオスクやモバイルチェックインが喜ばれるでしょう。

ホテルは、ゲストが求める体験のキュレーターになることもできます。例えば、地元企業と提携し、地元の観光スポットを紹介したり、地元の原材料を使ったオーガニックなアメニティーを提供したり、郷土料理の教室を開いたり、知る人ぞ知るアトラクションに関する情報をシェアしたりすることが考えられます。またラグジュアリーホテルの場合は、地産地消のコンセプトに基づく独自でパーソナライズされたグルメ体験を提供したり、ゲストがリフレッシュできるホリスティックなウェルネスプログラムをデザインしたりする工夫も考えられるはずです。

2. オムニチャネルの決済技術で、ゲスト側とホテル側の両方の体験をアップグレード

課題

ゲストがホテルに直接電話するか旅行代理店を通さなければ客室を予約できなかった時代や、宿泊代金を対面(フロント)でしか払えなかった時代は、とうに過ぎ去りました。2000年にはオンライン予約は革命的とされていましたが、今では完全に普通のことです。

現在、ホテルの予約の大半は、オンラインの旅行代理店や、ホテル自身のウェブサイトやアプリを経由して行われています。

そしてゲストは、オンラインと対面の両方で、予約の代金を支払っています。2022年には、ゲストの72%がオンラインで、またかなりの割合(ほぼ3人に1人)が対面で旅行代金を支払っていました。

現状分析

今の時代は、消費者にとっての柔軟性と選択肢の幅広さが重要です。もしゲストが望むものを入手できなければ、他のホテルや予約チャネルに乗り換えてしまうでしょう。実際、ゲストの55%は、希望する決済方法を利用できない場合、予約手続きを終えずに離脱します。

インフレの波はホスピタリティ業界にも及び、ゲストのロイヤルティが試される中、決済方法の選択肢を増やすことも重要です。2022年には、ホスピタリティ企業の39%が、オンラインと対面の両方の決済に対応し、ゲストの多様な好みに応えています。

今後の展望

決済方法やチャネルの数を増やすだけでは十分ではありません。決済で重要なのは手法であり、量だけでなく質が大切です。

ホスピタリティ業界におけるほとんどの決済環境の大きな問題は、決済チャネルごとにバックエンドシステムと決済プロバイダーが分かれていることです。そのため、ゲストは現地のフロントまたはモバイルアプリを介してホテルとやり取りできても、それぞれの決済ジャーニーは分離したままで、決済データは個別のシステムに送られます。

各システムがつながらずに断片化していると、運営上の手間やコストがかかり、ビジネス上のインサイトも失われます。また、ゲストは一貫性のあるブランド体験を楽しめず、1つのブランドではなく別々のブランドを体験したような気分になる場合もあります。

ユニファイドコマースのようなオムニチャネルソリューションは、顧客向けでもバックエンドでも、すべてのシステムを統合します。ホテルが新しいチャネルを追加した場合も、単一のプラットフォーム上でつながり、ホテルのさまざまな部門や施設全体のあらゆるデータと統合されます。

その結果、スタッフは各自のタスクを把握しやすくなり、ゲストのニーズにより早く、よりパーソナライズされた形で対応できるようになります。

3. 不正は増加傾向にあるものの、新しいセキュリティソリューションには大きな可能性がある

課題

ホスピタリティ業界は、サイバー攻撃を最も受けやすい業界の1つです。2022年には、世界のホスピタリティ企業の3分の1以上(37%)において、決済不正の試みが増加しています。また、32%はデータ漏洩を経験しています。

しかし、クレジットカードの国際ブランドが共同で設立したPCIセキュリティ基準(PCI DSS)や決済サービス指令2(PSD2)といった規制を遵守するのは難しく、時間もかかります。多くのホテルでは、絶えず変化するこれらの要件を満たすセキュリティ対策を設定し、実施するのが課題となっています。時代遅れのシステムから、スタッフや技術的リソースの不足に至るまで、多岐にわたる課題があります。

現状分析

不正利用の増加は、多大なコスト、機密データの喪失、および風評被害をホテルにもたらしています。業界内でのセキュリティ侵害の平均コストは340万ドルと見積もられています。

コンプライアンス違反は、多額の罰金にもつながります。例えば、PCI要件を満たしていない場合の罰金は、1か月当たり5,000ドルから10万ドルに及ぶ場合もあり、しかもこれは違反があった最初の3か月間のみの金額です。

その他の罰則もあります。例えば、PCIに準拠していないホテルは、クレジットカード決済を処理する能力を失う恐れがあります。そうなると大事態です。ホテル業界ではカード決済の利用が最も多いからです(2022年には全世界の取引の44%を占めていました)。

今後の展望

ホテルは適切なフィンテックパートナーと協力し、決済データのライフサイクルの全段階(決済データの収集や転送から処理、保管、処分に至るまで)に対応可能な、規制に沿ったセキュリティシステムを導入するのがよいでしょう。

新しいサイバーセキュリティソリューションは頻繁に発表されており、ホテルは自社のビジネスニーズに合ったものを選べます。特に注目すべきなのはトークン化です。

トークン化では、ゲストの決済データをランダムな数字の羅列(トークン)に変換し、ホテルとさまざまなパートナー企業の間で安全に保存・共有できるようにします。これはPCIに準拠したソリューションであり、業務のアジリティ(機敏性)、自動化、インサイトに基づくパーソナライゼーションなど、多くのメリットをもたらします。また、ゲストが財布を持たずに移動しても、ホテルでのドリンク、食事、スパトリートメントの支払いが可能になります。つまり、より安全であり、今の時代に合ったソリューションであると言えます。

4. 自動化によってホテル運営のアジリティを実現

課題

多くのホテルは、今も手作業で日常業務をこなしています。

受付でスタッフがゲストの情報をシステムに手動で登録したり、ゲストが電話越しに伝える決済情報を入力することで予約を確定したりしています。

決済データの照合も大部分は手作業で行われており、すべての販売チャネルの照合業務を一元化できているのは、ホスピタリティ企業のわずか22%にとどまります。つまり、財務チームは、すべての決済チャネルと決済方法で、ホテルの売上取引の情報をそれぞれ手作業でチェックしているのです。そして、ホテル自身の売上データと決済サービスプロバイダーからのデータが一致しているかを確認し、不一致があれば見つけ出さなければいけません。

現状分析

ホテルでの手作業にはリソースと時間がかかり、非効率的です。スタッフは、次に清掃すべきホテルの客室など、どのタスクが完了済みまたは作業中であるかを忘れてしまう場合もあります。また、多数の販売チャネルや旅行代理店にわたって空室状況の情報を更新する際も、手作業ではかなりの時間を要し、ダブルブッキングなどのミスが起こりがちです。

加えて、ホテルは慢性的な人手不足に陥っています。近年世界中で普及しているギグエコノミー(単発・短期で仕事を請け負う働き方)では柔軟な勤務形態が可能で、時代遅れの多くのシステムの使い方を学ぶ必要がないため、若い労働者はギグエコノミーに流出しています。そのため、ホテル運営に関わる多くの雑務をこなしてくれるスタッフの数が大きく減少しているのです。

今後の展望

業務の自動化は、この課題を解決するのに役立ちます。自動化はスタッフの仕事や人間同士のやり取りを代替するものではありません。その代わり、ワークフローを最適化することができます。

非接触型決済、モバイルチェックイン、リアルタイムの決済データ、トークン化などのソリューションは、単なる便利ツールではありません。ホテルはこれらを使用し、ゲストのデータと決済情報を正確かつ迅速に把握できるようになります。

ホテルのフロントスタッフは、カード情報を決済端末に手入力する無駄な時間を省くことができ、その分、ゲストとのコミュニケーションに集中することができます。また常連客を特定し、滞在をパーソナライズしていくことも可能でしょう。

さらに、主要パートナー(予約エンジンやホテル管理システムなど)とのスムーズな統合を通じ、客室の正確な予約状況に関するインサイトを入手し、より分かりやすい予約プロセスを実現することもできます。

ホテルは、より優れた価格戦略を適用し、市場の需要、客室タイプ、ゲストのセグメントに応じて料金を調整することも可能になります。また、照合作業を自動化し、夜間監査を実施する必要性をなくすことで、財務チームの作業時間を最大10時間短縮できたという報告もあります。

それぞれのホテルとゲストに適した決済戦略を

ホスピタリティ業界での決済業務が影響を及ぼす範囲は、収益、コスト、取引のみに限りません。全体的な事業運営と顧客体験の一部でもあるのです。そのため、適切な決済環境を整えることが重要です。


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